四牡 騑騑(ひひ)たり 周道 倭遅たり
豈帰るを懐わざらんや 王事鑒(や)むことなし
我が心傷非す

四牡 騑騑たり 嘽嘽たる駱馬
豈帰るを懐わざらんや 王事鑒むことなし
啓処するに遑(いとま)あらず

翩翩(へんぺん)たるは鵻(すい) 載ち飛び載ち下り
苞(ほう)たる栩(く)に集う 王事鑒(や)むことなし
父を将(やしな)うに遑(いとま)あらず

翩翩(へんぺん)たるは鵻(すい) 載ち飛び載ち止まり
苞(ほう)たる栩(く)に集う 王事鑒(や)むことなし
母を将(やしな)うに遑(いとま)あらず

彼の四駱に駕し 載ち驟(は)すること駸駸(しんしん)たり
豈帰るを懐わざらんや 是を用て歌を作り
母を将うを来(これ)に諗(つ)ぐ

 四つの馬は馳せ止まず、大道は遠く続く。郷里への思いは絶えないが、戦争はまだ終わらない。我が胸は悲しみ沈む。
 四つの馬は馳せ止まず、黒毛の馬はひた走る。郷里への思いは絶えないが、戦争はまた終わらない。私には安らぎ休む暇もない。
 ばたばたと羽ばたくは鵻(小鳩)、飛び上がりかつ下がり、茂れるくぬぎの木に集う。戦争がまだ終わらないので、父を養う暇もない。
 ばたばたと羽ばたくは鵻(小鳩)、飛び上がりかつ止まり、茂れるくぬぎの木に集う。戦争がまだ終わらないので、母を養う暇もない。
 四つの馬引く車に乗り、ひた走り馳せ止まず。郷里への思いは絶えること無し。されば思いを歌に綴り、祖霊に告げん、早く母を養うことができるよう。

出征した若者の帰還を祖霊に祈願する詩である。「我」と出征している若者の自称が用いられているのは、巫がその身を若者に仮託して謡うからである。末句に「是用作歌、将母来諗」とあるは、仮託された若者の労苦を歌に綴りこれを巫が謡うことによって、戦争が終結せぬことを祖霊に訴え祐護を求めるためである。陳風・墓門扁に「歌以訊之(歌いて以って訊ねさん)」とあるも、これと同様に自身の不遇を祖霊に訴え、祐護を希求する句である。

明治書院 詩経





詩に興り、礼に立ち、楽に成る 論語 孔子