関関たる雎鳩は 河の洲に在り
窈窕たる淑女は 君子の好逑

参差たる荇采は 左右に流む
窈窕たる淑女は 寤寐に求む

之を求めて得ざれば 寤寐に思服す
悠なる哉 悠なる哉 囅転反側す

参差たる荇采は 左右に采る
窈窕たる淑女は 琴瑟もて友しむ

参差たる荇采は 左右に芼る
窈窕たる淑女は 鍾鼓もて友しむ

クワーン、クワーンと鳴くみさご鳥が、黄河の中州に降り立つ(祖霊は鳥の形をして河に降り立ちたもうた)。たおやけき乙女(巫女)は、祖霊のつれあい。
高く低くしげる沼のアサザを、左右に選び取る。たおやけき巫女は、夢にまで祖霊の降臨を求め願う。
求めても得られぬとて、夢にまでも繰り返し思い詰める。ああ憂わしきかな、伏しまどいつつ夜をすごす。
高く低くしげる沼のアサザを、左に右に選び取る。たおやけき巫女は、宗廟で琴瑟を奏でて(祖霊を呼ぶ)。
高く低くしげる沼のアサザを、左に右に抜き取る。たおやけき巫女は、宗廟で鐘と皷をならして(祖霊を招く)。

祖霊祭祀の詩である。古代において祖先の御霊を祀ることは共同体にとって最も重要な事項であり、それは宗廟と呼ばれる場所で行われた。この宗廟とは祖霊祭祀の場であると同時に、例えば即位儀礼・冊命儀礼・朝聘礼や征役に関わる祭祀儀礼、及び冠礼・婚礼等の通過儀礼を含む共同体内の諸儀礼の行われる場であった。そしてそれは必ずそこに降臨する祖霊に対し諸事の許可を求め、また報告する目的の元に行われるものであった。本編に置いては一族の祖霊に対して「君子」という称謂が用いられている。冒頭で「関関雎鳩、在河之洲」と謡われているのは、祖霊が一族の元に降臨したことを表すものである。「詩経」中に謡われる鳥はすべて、神や祖霊等の霊魂の象徴と解釈するべきであり、本編においては「雎鳩」が祖霊の象徴として謡われている。また、祖霊の降臨を祈る巫女を「窈窕淑女」と呼び、その巫女が長短不揃いに生える「若菜」を選び取り、これを宗廟に供えて降臨を祈願し、それがもし叶わなければ、寝ることもできぬほど専一に祖霊に仕えると謡うのは、當えて神婚儀礼(神と人との婚姻儀礼)の形式をとった降神儀礼が行われていたことを示唆するものである。神や祖霊に仕える巫は、神と人とを仲介する存在であるとともに、神に占有される存在でなくてはならず、ここに神と巫との婚姻という概念が生じたものと考えられる。故に第一章においては「 窈窕淑女、君子好逑」と、巫女が祖霊の善きつれあいであると謡うのである。