桃の夭夭たる  灼灼(しゃくしゃく)たりその華
之の子 于(ここ)に帰(とつ)ぐ  其の室家に宜しからん

桃の夭夭たる  糞たり其の実
之の子  于に帰ぐ  其の家室に宜しからん

桃の夭夭たる  其の葉蓁蓁(しんしん)たり
之の子  于に帰ぐ 其の家人に宜しからん

桃の木はわかわかしく、その花は赤々と輝く。この子がこうして嫁いでゆけば、家庭はきっとうまくゆく。
桃の木はわかわかしく、大きな実がふくらむ。この子がこうして嫁いでゆけば、家庭はきっとうまくゆく。
桃の木はわかわかしく、葉も青々としげる。この子がこうして嫁いでゆけば、家庭はきっとうまくゆく。

宗廟において一族の乙女が嫁ぐことを祖霊に報告し、夫となる男性の家での乙女の幸福を言祝ぐ(はぐ)詩である。「之子」とは嫁ぎゆく女性を指し、「室家」「家室」とは夫となる男性の家を、「家人」とは夫の家族を指す語である。第一章において「桃之夭夭、灼灼其華」とつつやかな桃の華を謡い、第二章において「桃之夭夭、有糞其実」と豊かな桃の実を謡い、第三章において「桃之夭夭、其葉蓁蓁」と盛んに茂る桃の葉を謡って、葉から実、実から葉へと展開するのは、桃の木全体を謡っているからであり、この桃の木とは、一族の祖先の御霊が憑依する依代である。この依代に憑依した祖霊を祀り、女性の結婚を報告し、夫家での幸福を言祝ぐのである。
   


明治書院  詩経より