何かを縮めようとするときには、必ずその前にしばらく伸ばしてやるものである。何かを弱めようとするときには、必ずその前にしばらく強めてやるものである。何かを廃止しようとするときには、必ずその前に盛んにしてやるものである。何かを奪おうとする時には、必ずその前にしばらく与えてやるものである。このことを微妙で明らかなやり方と言うのである。勝てそうもない柔弱なものが、負けそうにない剛強なものに勝つのである。魚は川の深い淵から、外へ逃れ出てはならない。出たら死んでしまうのである。国を守る利器は人に示してはならない。示せば禍を招くからである。

Deepest understandable way for the human but certainly effective to use it.

It's better to extend something for a while befor shrink it, to strongthen something for a while before weaken it ,  to active something for a while before abolish it , to give something for a while before take it out. This way called delicate and clear. Very weak one which seems never win overcome very strong one which seems never loose. A fish never go out from a deep pool. If it go out it must die. Everybody must not show the weapon other which guard the nation. If he do so he will invite unfortune to his country.

この章は、章中の語「微明」をタイトルとしている。「深遠で人知では知り難いやり方ではあるが、その効果は明らか」の意である。道のそのようなやり方を踏まえた上で、外交・内政を行うべきだと述べている。

「之を縮めんと欲せば、必ず固らく之を張る」。「縮」は、「収斂する」の意で、ここでは縮めること。「将欲」は二字で「しようとする」の意。ここの「将」は「欲」の意。「固」は「始」と音が通じ、「しばらく」の意。この文以下、四文八句は同様の表現。すなわち何か動作を行う場合、必ず負方向のベクトルにいったん向かってから、正方向のベクトルに向かうものだと言っている。ここの主語は省略されていて、何が主語であるかは難しい。一般論と考え、「われわれは」という意味で解するのが自然かもしれぬが、「道」を主語と考えることもできる。道は万物の仕組みを熟知しているので、万物を縮めようと思ったときには、縮める前に必ずいったんは思う存分伸ばさせてやる。つまり、道は万物の仕組みを考えて、いったん逆方向の力を与えた方が、より効果的であることを知っている、ということ。

「之を弱めんと将欲せば、必ず固らく之を強くす」。道は万物の力を弱めさせようと思った場合、必ず一時的に存分に力を強めてやるものだ、の意。

「之を廃せんと将欲せば、必ず固らく之を興す」。道は万物を衰えさせようと思った場合、必ずその前にしばらくは盛んな時期を設けてやるものだ、の意。

「之を奪わんと将欲せば、必ず固らく之に与う」。道は万物から奪おうと思った場合、必ずしばらくの間、存分に与えてやるものだ、の意。以上の八句は「縮」と「張」、「弱」と「強」、「廃」と「興」、「奪」と「与」がそれぞれ反対方向の動作を表す動詞となっている。また、この八句は、類似した文章が「韓非子」説林上編や「戦国策」魏編に「周書に曰く」として載せられており、老子の言というより、当時の諺的な物であったと考えられる。

「是を微明と謂う」。「微明」は微妙な(深遠で知り難い)やり方ではあるが、その効果は明らかの意。道のこのやり方は、深遠で人知では知り難いやり方ではあるが、明らかな効果をもたらすやり方である、ということ。

「柔弱は剛強に勝つ」。一見勝てそうにない柔らかく弱いものが、一見負けそうにない固くて強いものに勝つのである。すなわち、道の微妙なやり方で明らかな効果をもたらすという道理が「柔弱は剛強に勝つ」という結果を生み出すのだ、ということ。

「魚は渕より脱す可らず」。魚は川の淵から出てはならない。魚は川の淵から出てしまうと、安全な場所を失い、人間に捕らえられてしまう。同様に、万物も安全無難な居場所である川の淵のような道の深遠な働きから離れるべきではない、ということ。

「国の利器は、以て人に示す可からず」。「国の利器」は、国を守り治める大切な鋭い道具。道を体得した聖人の知恵のこと。魚が淵から出てはならないように、国を守り治める大切な鋭い道具も、やたらに他人に示してはならないのだ、の意。


明治書院 老子より