曾子曰く、士は以て弘毅ならざるべからず。任重くして道遠し。仁以て己が任と為す。亦重からずや。死して後に已む。亦遠からずや、と。

曾子が言う、士たる者は広い包容力と強い意志を持たなくてはならぬ。なんとなれば、その任務は重く、その人生行路ははるかに遠いからである。その任ずるところは、最高至上の徳である仁道の体得とその実践である。なんと実に責任の重いことではないか。しかも、その重圧は死ぬまで続く。なんとまあ、遠いことではないか。

この泰伯編では曾子の言葉が五章続いてとられている。「論語」の中で子(先生)の字をつけて呼ばれる弟子は四人(曾子・有子・閔氏・冉子)いるが、その中で一番多いのが曾子であり、「論語」の編集は曾子の弟子や孫弟子たちが中心になったとも言われている。この章の言葉は子路編の孔子の言葉「剛毅木訥は仁に近し」を曾子なりの解釈で述べたものとも考えられる。また徳川家康の「東照遺訓」の「人の一生は重き荷を負いて遠き道を行くが如し、急ぐべからず」は、この章に基づいている。

明治書院 論語 より

任重くして道遠し 論語 孔子