子、子夏に謂いて曰く、女君子の儒と為れ、小人の儒と為ること無かれ、と。

孔子が子夏に向かって言われるには、「お前は志の大きい徳の高い、いわゆる君子人の学者になれ。単なる物知りの小人の学者になるな」と。

「史記」は孔子が幼かったとき、遊ぶのに「いつも祭器を並べ、礼儀正しい動作をした」と記している。三歳で父を亡くした孔子は母に育てられたのだが、幼い子が祭器を並べたのは、母の毎日の生活をまねたとしか考えられず、母は巫女のような神を祭ることに従事した宗教人であったかもしれない。孔子の目標の一つには、それまで神の権威に縛られていた人間を解放して、人間としての独立を願う心があったように思われる。儒とは学者のことだが、小人儒とは迷信などにこだわる宗教的権威にあった学者のことで、君子儒とは道徳による天下の救済を目標とする学者を言い、子夏にそのような人物になれと教えたものであろう。

明治書院 論語より


君子の儒となれ 論語 孔子